(あ…。)

フェイは、暖かい温もりを掌に感じ我に返った。
彼女の手をアベルが無言で強く握り締めた。

フェイが彼の顔を見下ろす…彼女を見つめ返す雄弁な瞳が“大丈夫ですよ”と語りかける。


「…取り乱して…ごめん。」

「いいんですよ。それよりもそのまま動かないで!」

「え?」

アベルの言葉に、フェイは視線を頭上に走らせた。


シャキィィン

白刃が空を切り、アベルの身体が優雅に宙を舞った。


ガシュッ

肉が切り裂かれる音が響き、フェイの頭上から何かが地に落ちた。


「うわっ、化け物!」

叫び声をあげて、フェイが後ろへ飛び退り、およそこの場所に似つかわしくない禍々しい生き物を凝視した。

「アイスワームだ。コイツに噛まれると死ぬぞ…危なかったなぁ。」

「なっ、何を呑気な事を!」

アイスワームの死骸を靴のつま先で転がしながらニィと笑うレオルドに向かってフェイが怒り心頭になり喰ってかかる。


「それにしても、アベル…いい腕だなぁ。」

「ありがとうございます。これでも騎士の家の出ですから。」

「成る程。それじゃあ、この仕事は期待しても良さそうだな。」


そう言ってレオルドは紫檀のロッドを静かに構えた。


「どうやら本命が現れたようだぜ…。」

その言葉に二人は頷き、静かに剣を抜き身構えた。