油断してしまうと、聞きたいことがひとつひとつ落ちていってしまいそうな気がして、
私はのどにぐっと力を込めた。
私たちは、そんなことを簡単に聞ける関係じゃないもの。
ただ、月に一度だけ、チョコレートを約束しているだけ。
私は彼のことを、何一つ知らない。
彼も私を知らない。
曖昧な、中途半端な関係だけれど、だからこそこの距離が丁度よかった。
「チョコってほんと料理うまいよな」
にこにこ笑顔でそんなことを言う彼。
スフレやガトーショコラならまだしも、生チョコは溶かしたチョコに生クリームを入れて固めるだけ。
それなのに、「おいしい」と素直に喜んでくれる彼がまぶしかった。
11ヶ月、ずっと聞きたくて、でも聞けなかったことがある。

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