私を『チョコ』と呼んだのは、彼が最初で最後だった。

誰も私を『チョコ』なんて呼ぼうとはしなかった。


「ねえねえ、明日バレンタインじゃん?
義理でいいから、俺、チョコレートほしいなー」

「嫌です。」


──あの雪だるまのストラップは、今、私の机の引き出しにひっそりと眠っている。

一度も鞄やケータイにぶらさげたことはない。

身につけてしまえば、毎日のようにあの日のことを思い出すのが目に見えていたからだ。

だからといって、ストラップの存在を忘れたことはない。

それくらい、毎月14日の約束は、私にとって重要なことだった。


「なんでだよー!彼氏いないって言ったじゃん!
何、本命でもいるの?」


私の後ろにまとわりつき、口を尖らせる男。