苦しくなるだけの思い出だったら、蘇ることを許さず、闇に葬り去ってしまえばいい。

思い出さず、一生忘れたままで、そのまま命尽きる日を待てるのならば、それ以上の幸福はないだろう。

薄れていく記憶はいつしか思い出に変わり、止まったままのあの日の彼とは裏腹に、私は進んでいく。

私だけが、進んでいく。

出来ることなら、忘れたまま生きることができるなら、どんなに楽なことだろう。

───けれど、現実がそう簡単なものではないと、私は知っている。

忘れたはずの思い出を、ふとした拍子に思い出すことがある。


「千代子ちゃん!」

「…今日は何なんですか?」


うざいやつがまた来た。

口には出さないように心の中で愚痴を吐きながら、私はため息をつく。