今までに見たことがない笑顔で笑う彼を見て、
彼女のことが好きなんだなあ、としみじみ思い知らされた。
しばらくして彼は、パチン、とケータイを閉じて、
ストラップを無理矢理私の手のひらに握らせた。
「ちょっと……」
反射でそれを拒否しようとする体。
が、彼はそれでも引き返さない。
「お願いだから。もう、チョコをねだったりなんてしないから。
…もらって」
彼の言葉は残酷で、けれどどこか優しくて…。
私はストラップをしぶしぶ受け取る。
すると彼は「ありがとう」と笑った。
笑ったと同時に、ベンチから腰を浮かせ、振り向き、私の瞳をじっと見据える。
何もかもを見透かされてしまいそうで怖くなり、無意識に目をそらす。

![[エッセイ]気持ち](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre12.png)
![[短編集]恋花](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)
![[極短]限りなく5に近い4](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre99.png)