「……私、」
───受け取れない。
たった一言、私が言おうと思った言葉は、
突然流行りの曲を響かせた彼のケータイによって遮られてしまった。
さっきストラップを取り出したのとは逆のポケットに手を入れ、
ケータイを取り出して、ディスプレイを確認する彼。
「…彼女からだ」
「出なくてもいいの?」
着信かメールかはわからなかったけれど、正直、静かな空気が敗れ去ってくれたことに安心した。
そんなこと、彼には言えないけれど。
「ん。メールだったから」
手のひらのストラップはそのままに、ケータイをいじりながら、
彼は歯を見せて笑みを浮かべる。
「…そっか」
「“ラブストーリーとホラー、どっちがいい?”だって。
どっちでもいいっつーの」

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