素直に受け取っておけばいいものを、疑い深い私は、ストラップを受け取ることもできない。
「…あげる」
一向にストラップを手にしようとしない私に、彼は再びつぶやく。
受け取ってしまったら、私はもう、ここから動けなくなるのではないか…。
そんな不安が体中にまとわりつく。
ここにいたいとわがままを言って、彼を困らせてしまうかもしれない。
ストラップが足枷になり、前に進むことができなくなってしまうかもしれない。
「……」
彼が私の目の前に手を突き出しても、私はそれを手にしようとはしなかった。
次第に雪は強くなり、私たちを白の世界へと迷わせようとする。
こんな日に、タイツにブーツを合わせてきたのが間違いだったのか、
ベンチの底からは冷気が漂い、同時に、私の体も震えだす。

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