あの日、私が彼に奪われたチョコレートと同じ。
一種の賭けだった。
もしも彼があの日よりもほろ苦いチョコレートの味に気づいてくれたなら、
ふたりの時間をあともう少しだけ延ばせるのかではないかと。
賭けなんて意味がないとは知っていたのに賭けずにいられなかったのは、
彼の本心を聞くことが怖くてたまらなかったから。
このままの距離を維持しようと思えば、それは容易にできたはず。
それでも私は、彼のいない世界に戻ることを、決めた。
「…そっか」
彼もどこかではわかっていたのかもしれない。
こんな関係が、いつまでも続くことはないのだと。
ただ過ぎていく時間が、次第に私たちをキリキリと痛めつけていく。
“私たち”ではないのかもしれない。

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