そして、それを見て「たいへんねえ」と笑う別の母親。
最低かもしれないけど…。
いなくなってほしい、と思った。
今すぐ私と彼をふたりきりにして。
最初で最後でいいの。
…今だけ。
願いはこんなに儚く、そして小さなことなのに。
どうして神様は、こんなちっぽけな願いさえも叶えてくれないのだろう。
「…ねえ」
最後だから。
ずっと気になっていたこと、ずっと聞きたかったこと、
ずっと知りたかったこと…。
ひとつでもいいから、記憶の中に、留めておきたい。
「彼女とは…うまくいってる?」
「…うん」
「そう…」
聞きたかったことをすべて聞いてやろう、と思ったのに、
それ以上言葉が出てこなかった。

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