チョコレートを食べ終えた彼は、


『毎月14日、ここで、チョコ待ってる』


たったそれだけを残し、何も聞かないまま、私の前から姿を消した。

わけがわからないまま、嵐のように過ぎ去っていく出来事。

けれど、さっきまでの憂鬱な気分が私の中から消え去り、

心が軽くなっていたのは確かだった。

そして、それが彼のおかげだってことも、わかっていた…。

バレンタインにチョコレートを抱えながら泣いている人を見れば、

嫌でも“ふられたんだ”とわかるはずだ。

そういう場面に遭遇したとき、普通の人間ならそっとしておくだろう。

“デリカシーのない人”

それが彼の第一印象だった。

自分の名前も名乗らず、受け取ってもらえなかった悲しいチョコレートを食べて颯爽と去った彼。

わけのわからないやつだったのに、“また会いたい”と思ってしまったのはどうしてだろう。