『あげる人いないの?』


失恋したばかりだった。初めての失恋だった。

去年の2月14日、バレンタインの日、私は、ずっと好きだった先輩にチョコレートを渡すことを決意した。

料理は苦手分野。

頑張って作って出来上がったのは、溶かして固めただけなのに、

ひびが入ってお世辞にも“おいしそう”とは言えないチョコレートだった。

けど、精一杯、心を込めて作ったの。…先輩のために。


放課後私は先輩を裏庭に呼び出し、チョコレートを渡した。

先輩とは特に面識があるわけではない。

私が勝手に好きだっただけ。

先輩が私の存在を知らなくても仕方がなかった。

それくらい、私と先輩には遠い距離があった。


『…これ、もらってくださいっ…』


先輩の目の前にチョコレートの入った箱を突き出す。