完敗、といわんばかりに紫馬が冗談めいた仕草で両手をあげてみせた。

「もう、いい。
俺の負けですっ」

「まぁ、なんの勝負もしてないのに紫馬くんに勝っちゃったー」

ピース、と。
無邪気な子供のようにママがブイサインを作ってみせる。

「ええ、ええ。
どうせ、俺は敵いませんよ」

そういうと、お金を置いて立ち上がる。

出会った時から、ずっと。
敵わない相手に紫馬は、舞踏会を想像させるような華麗な礼をしてみせた。

「紫馬くんってさ、かっこうだけはいいのよね」

いつか、学校の校舎で聞いたのと同じ台詞が耳元に落ちてくる。

「かっこうも悪いより、マシだと思ってよ」

いつか、学校の校舎で言ったのと同じ台詞で返してみる。

また、レコードは止まり、店の中には静寂が満ちていた。


古い傷を舐めあうかのように、古い思い出を一緒にゆっくり愛でるかのように、ゆっくりと。
二人の唇が、重なった。