鳩が豆鉄砲でもくらったような。
というよりは、目の前で魔法でも目撃してしまったような、驚きに満ちた表情で紫馬が清水を見つめている。

『驚きすぎだろ?』

長い沈黙の後、照れたようにそう切り出したのは清水の方だった。

『だって、ヒデさん。
分かってんの?
銀組って、聞いたことないワケ?』

『あるよ』

ヤクザの抗争。
裏組織の存在。
麻薬の密輸ルート。
人身売買。
有名政治家の自殺。
ネット犯罪。
詐欺。

きな臭い事件のたびに、その裏で銀組の関与が囁かれている。
いまやその存在を、おおっぴらにマスコミがとりあげることすらタブーなのだ。

知らないはずがない。

『普通の人なら、こんなところにのこのこ入ってこないって!』

勝手に人を引きずりこんだ挙句「のこのこ」なんて言われようをするのは納得いかないとでも言うように、清水は形の良い唇を歪めてみせる。

『じゃ、のこのことここから出て行けばいいのかな?』

『そうじゃないけど』

すっかりいつものペースを乱してしまった紫馬が、なんだか可笑しくて清水もようやく脚を組む余裕が出来た。