紫馬が軽い口調に戻ったと同時に、清水も我に返った。

『あ、パパーっ』

と。
そこに、大学のキャンパスには不釣合いな幼子の声が響いてきた。
自分には無関係だろうと、その声をスルーした清水だが、隣の紫馬が唐突に立ち上がったので、驚いて視線をやる。

目の前までやってきた少女は、子供らしい幼稚園の制服を着ており、片手にはウサギのぬいぐるみを抱えていた。迷わず紫馬の元に駆け寄ってにこりと笑顔を零す。

『都ちゃん、どうやって来たの?』

紫馬はこれまで大学では誰にでも見せたことがないほどの甘やかな笑顔をその顔に浮かべ、幼子を抱き上げた。

『俺が連れて来たに決まってるでしょう?』

落ち着いた声に目をやるが、そこに居たのはまだ、紛れもなく「少年」と分類したほうが良いような子供だった。
それでも、彼の持つ雰囲気は可愛らしい子供のものとはかけ離れていたが。

清水は後で彼がまだ10歳であると知って目を剥いたほどだ。

『これはこれは、わざわざどうも』

紫馬が子供相手に丁寧に頭を下げるのを見て、清水はさらに目を丸くする。

『俺のことはいいんです。
明後日、都さんの幼稚園では父親参観日なんです。
来ていただけませんか?』

『もちろん、喜んで』