ことん、と。
紫馬が近くにある石で出来た椅子に腰を下ろす。

ぱしぱし、と。
その石を叩いて見せるのは隣に座れということなのだろうと理解して、清水はそれに従った。


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紫馬は確かに年下ではあるが、出会ったときからずっと、態度がでかい。
というか。
誰もが一目置くようなオーラを携えていた。

いつか、それを大学のキャンパス、芝生の上でサンドイッチを齧りながら紫馬に言った事がある。
彼はにこりと相好を崩して言った。

『オーラなんて誰でも磨けば光るって。
磨いてないだけでしょ、ヒデさんは』

それから、表情を引き締めじぃと真剣な瞳で言った。
こんなに真剣な表情が彼に出来るのかと内心驚いたほどだ。

『何をやっても上手く行かないのは、何をやっても上手く行かないって自分で思い込んでいるだけですよ』

いつもの軽口とは一線を画した、酷く低い声だった。
就職が決まって尚、不安を感じていた時期だっただけに、心に響くものがあった。

ただ、そんな不安を誰にも喋ったことなどない。
――何故、それを?

清水がそう思い、はっと紫馬を見つめなおしたときには、もう、いつもの正体不明な甘い笑顔を携えて居た。大学生の頃の紫馬は、今とは違い男女問わず誰にでも終始笑いかけているような男だったのだ。

『暗示さえかけとけば、何でも上手くいくのにさ』