松葉杖にパジャマといういでたちの清水は、一瞬自分を見下ろし、ほとんど無意識のうちに、チューリップの花束を抱えていたことに少し驚く。

『ここに居て、第二の刺客が来るよりマシだと想うけど』

のんびりした声には、しかし、どこか剣呑な空気がまとわりついている。

『ああ』

頷いて、ふかふかのクッションがきいた革張りのシートに身を沈めた。
紫馬は今からピクニックにでも行くような、楽しそうな笑顔を浮かべる。

『どうも』

向かいに座っていたのは、先日銃声を聞いて駆けつけた少年だった。
その瞳が月の光を受けて、きらりと鋭い光を放つ。

『こんばんは』

清水はとっさに言葉が浮かばず、とりあえずこの時間に一番ふさわしいと思われる挨拶をする。

『彼が、都さんの想い人、というわけですか?』

紫馬に向けたその口調は、あからさまに刺々しい。
変声期前というのに、その声には重みがあった。

紫馬は、腕の中で眠る都に少し視線を落とし、
『ええ。彼女が私にお小遣いを強請ってきたことなんてありませんでしたからねぇ』
と、まるで言葉の重さなど感じていないかのような軽い返事をする。

『お小遣い?』

首を傾げる清水の手に握られているチューリップに目をやり、紫馬は笑う。

『それだよ、それ。
どうしても買って持って行きたかったんだろうなー。
ほっぺにちゅうしてくれたら、五百円あげるって言ったら、ものすごく嫌そうにキスしてくれた☆
親っていいねぇ』

5本のピンクのチューリップが、父親からキスを強要された対価だと知ると清水はなにやら申し訳ない気にすらなった。

少年の方は、あからさまに不機嫌な視線を紫馬に向けている。