『ちょっと、ここは病院なんですよっ』

ヒステリックな声が、病院に響く。
清水は看護師を見るついでに、都が言っていた方を見て愕然とした。

スーツ姿の男は、会社の先輩である斎藤だった。
ちらりと視線が会う。

――悪鬼だ

と、清水は反射的に思った。
冴えない男だと思っていた斎藤が、今、般若のような顔で清水を睨んでいた。
ポケットに手を突っ込んでいる。
確かにそこは不自然に膨らんでいた。

『だあって、パパがゲーム買わないってゆーんだもんっ』

都は、看護師のスカートを掴んで声を張り上げた。

『すみませんっ』

清水は立ち上がり、看護師の目の前に回る。斎藤の手が簡単には届かないところだ。

『買ってあげるから、おとなしくしなさい』

父親を気取って声を掛ける。そうすると、四十代半ばと思われる看護師の顔が余計不快な表情に変わった。

『ちょっとアナタ、この程度で子供に屈してどうすんのよっ』

なんと、ヒステリーなトーンそのままに清水に向かって説教を始めたのだ。

さすがの清水も呆気にとられる。

ポカンとしている清水に、長々と一方的に看護師は持論をぶつけ始めた。