「花巻くん」

紀子の声で我に返った。

毅とのやり取りはちょっとしたデイトリップ。


何処か深い意識の底に手が触れたような
もどかしいような
達成感のあるような
半端な感覚。


でもそんな無重力感も
紀子の笑顔で地に足が着く。


マジで。


「何だよ、まだいたのか。一緒に帰る?」

なんか照れ臭くて
うつむきながら誘う。

紀子はニコッとしてオレの隣に駆け寄る。


真横からにじり寄るみたいにして
オレの左腕に右腕を絡ませる。


ビクッたオレにネエサンぶった口をきく。

「花巻くん、なんでこんな時間まで残ってたの?部活してないくせに」


紀子は吹奏楽部のフルートを担当している。
だからオレには学校にグダグダしてる意味がないって?


「わかったよ、オレが紀子待ってたんですよ、はい。」


「あら、素直ね〜。」


紀子は素早く離れると話はしやすいけど、余り近すぎない距離を取った。