「クロエ君、食欲無いの?」
「あります。いや、ありました。………30分前までは」
「なら、まだ沢山あるわよー!」
「だから! 30分前まではあったの! 今はありません」
「クロ、へんなのー」
「あのさ、お二人さん」
「なぁに?」「なんだ、クロ」
「あんたら、胃のなかブラックホールでもあんのですか」
「「無い」」
「絶対あるだろ! ぼくはもうごちそうさまです!」
「…………」
「…………」
「おら、それ以上食ったら殺すぞ」
「………っ痛いよ」
「調子乗ってんじゃねぇよ。誰の金で今まで生きて来たんだよ」
「…………ごちそうさま」
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今まで泊まっていた時もそうだったが、サエの家族は毎食の量が多い。何故一人で三人前が当たり前なんだよ………。
重たい腹で階段を降り、当てがわれた部屋に入り、溜め息。
元からぼくが泊まる時に使っていた部屋が、そのまま自室になった。
前の部屋から家具等を移動させただけだ。安っちい遮光カーテンも。
未だに、あまり実感が無い。
目撃した直後は、あんなに大泣きしてたのに、未だに両親が死んだという実感が湧かない。
後ろを振り返りながらも、ぼくは前に進んでいた。
知らずに。
何も考えずに。
父さんも。
母さんも。
野田さんだってそう。
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