ぼくは、目尻に残っていた涙を拭って、リビングのドアを睨んだ。

何があるのか、ぼくは見なくてはならない。






妙に静かだった。サエの泣き声も不思議と遠く感じた。


一歩二歩と近付く度に、うなじの辺りがチリチリした。目が乾いた。何度瞬きしても足りなかった。





完全に閉まっていないドアの隙間から、細い光が伸びている。


一瞬、全てが夢の様に思えた。
今にも母さんが料理している音とテレビのニュースの声が聞こえて―――…









油を差していないドアが開く。ただ単にぼくの耳の感覚が鋭敏になってるだけかもしれない。




まず、紅い血が目に入った。

階段や廊下に、道標のように点々と続いていた血が、リビングの床の上を進み、やがて大きな血溜りの中に消えていた。




ぼくは冷静で居られた。
サエが激しく泣きじゃくっていたからかもしれない。
不思議なことに、両親の死より、サエが泣いてることの方が重要に思った。


前に学校で教わった順に、警察に電話した。


「学校から帰って来たら、両親が死んでました」


自分で言いながら、言葉の現実味の無さと冷静に言う自分自身に寒気がした。

受話器を戻すと、此れからどうなるのだろう、という思考に駈られた。

葬式なんてしたくない、すぐにでも埋めてやりたい。もう見たくない。


住む所は?

ここに一人で住むのか?


親戚なんて、一人として会ったことがない。
外国にいる父さんの家族は当たり前だが、母さんは両親の反対を無視して結婚したので、両親とは事実上、「絶縁」している。



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