僕の中の十字架





「たーいーぴーえんっ♪」


むかしむかし。
この地に住む人が、ある中華料理を真似て作った料理、それが太平燕。

この地元独自の食べ物で、あまりメジャーではない。
でも美味しい。凄く。めっさうまい。

サエはぼく以上の太平燕ファンで、今日の夕食が太平燕であることに世界一の幸せを感じているようだ。


「たーいーぴーえん♪」

「幸せそうだな」


歩道の縁石の上を歩きながら、太平燕の唄(自作)を唄っていたサエは、ぼくの言葉に、バッと顔を向けて


「うんっ!」


背後に花でも咲きそうな程ハイテンションで笑ってみせた。

その笑顔に人懐っこい猫のイメージが浮かんだ。


「それにっ、クロと泊まるしねっ」

「そんなに嬉しい事か?」

「当たり前じゃん!クロ好きだもんっ」




はは、と笑っておいた。

サエという生き物は、物怖じしない人懐っこい性格をしている。
“好き”なんて言葉も軽々口に出せる。

“そういう”意味ではないとは、もう十分に理解していた。


それでも、サエからそんな言葉を貰う度、物凄く意識している自分が居るのだ。


.