僕の中の十字架





そこは一般的なユニットバスで、風呂場と脱衣所を仕切るのはすりガラスを填めたドアだった。


そこからぼんやりと、朝の光とともに人影が窺えた。

動きは一切無く、まるで石になったかの様だ。



北村は、サエに耳打ちした。



「私達が居る事に気付かれない様に、サエちゃんが私の代わりに喋ってくれる?」



珍しく真剣な表情で頷き、サエは一歩、風呂場に近付いて、



「母ちゃ――ん、クロー?」



全く緊張感の無い声で呼び掛けた。






『……………サエ?』


「クロ? どげんしたか? 暑かろー、はよ出てこんね」



オイオイ、いきなり方言かよ、と思う富士原。


オイオイ、私の話を聞いてくれ、と思う北村。



『…………』


「クロ?」


『でも………おばさんが……』


「母ちゃんか? 母ちゃん、何か知らんがもう出てこんね。もう登校時間だぜ」



後ろからそんな会話を聞きながら、目配せしあう二人。

何か………、何故呼ばれたのかしら…………?