それは、夏のはじめのある日の事。

公園のトイレの屋根から落ちたぼくは、右足の骨を折り、近くの総合病院に入院した。

巣から落ちたツバメのヒナを助けようとして、足を滑らせたのだ。

『総合病院』と言っても、院長を兼ねたじいさんが小児科を、その長男が外科を、次男が内科を、長女が産婦人科を担当している、親族経営の小さな病院だ。

ちなみに、ぼくは、そこの院長の長男の息子だったりする。

自宅が通りをはさんで反対側にあるのだから、入院する必要なんか全くない。

なのに、ぼくは強引に入院させられた。

その時同室になったのが、明生だ。

明生は、ぼくより2つ年上だが、腕の太さはぼくの半分しかない。

体が弱くて、赤ん坊の頃からずっと、病院で暮らしているんだという。

都心の大きな病院から、何年か前にうちの病院に移ってきた。

自宅の近くの方が面会に来やすいから、と、家の人が希望したらしい。

でも、ぼくが入院している間、家の人が訪れたのはほんの数えるほどで、『面会に来やすいから』ここに来たとは、到底思えなかった。

1、2度見かけた明生のお母さんは、きれいだけれど、とても疲れているように見えた。

明生はいつも底抜けに明るくて、冗談ばかり言って周りを笑わせている。

家の人たちの前でもそれは変わらず、心配顔で来た人も、明生の元気をもらって明るい顔になって帰っていく。

でも、見舞いの人に元気をあげてしまった明生は、しばらくの間、笑顔が泣き顔みたいになってしまうんだ。