貯金箱をひっくり返して全財産をポケットにねじ込むと、ぼくは不思議屋へと走った。

開いていたのが、ほんの一瞬の、店の人の気まぐれなんかでないことを祈りながら。

幸運な事に、店はさっき見た時のまま、扉を外に開いている。

店の中は薄暗く、外のたたずまいからは想像がつかないほど広かった。

天井が、異様な位に高い。
湿ったホコリの匂いと、何か甘く優しい香り。

懐かしいような、胸の奥がキュッとなるような、不思議な心地よさがある。
童話の挿絵にあるような糸車。

飴色に古びた船箪笥。

大人一人が、カンタンに入れそうな、大きな大きな陶器のつぼには、表面に、昔の中国の子供達が向こう向きに座って手をつないでいる絵が描かれている。

とても座り心地の良さそうな揺りいすが、部屋に微かに揺れている。

中央の太い柱には、はるか上から下までずらりと振り子の掛け時計。針はどれもてんでんばらばらに勝手な時をさしている。
壁に造り付けられた棚には、指輪やら首飾りやら、細々と小さな物が飾り気なく置かれている。

そして、その棚の隅に、ぼくの探していた物があった……本である。

厚い布貼りの本が何冊か、綿のようなホコリをかぶっている。