その店はずっと前からそこにあったが、開いているのを見たのは、その日が初めてだった。

ショウウィンドウを兼ねた出窓のガラスは汚れて曇っていたし、ステンドグラスのはめ込まれた扉は、金属の桟や取っ手にサビが浮いていた。

傾きかけた看板は、ペンキがはげて、近寄って注意深く眺めなければ、店の名前さえもわからないほどだ。

おそらく、この街の大部分の人たちは、もうとっくにつぶれた食堂の跡か何かだと思っていることだろう。

主をなくして時を止めたまま、忘れ去られてしまっている店……

でも、ぼくはずっと前から気がついていた。

曇ったショウウィンドウの向こうにぽつんと置かれた飾り物が、時々変わっていることに。

ある時は、ばらの花の上で微笑む古い古い妖精の絵だったし、またある時には、ホコリをかぶって曇ったワイングラスだった。

ピカピカに磨かれた銀のスプーンが1本だけの時もあったし、黄ばんでヨレヨレになったハガキが無造作に置かれている時もあった。

そのどれもが、いわくありげで、ちょっぴりブキミでもあった。

店の名前は『不思議屋』。

あまりにもハマリ過ぎた名前だと、ぼくは思う。

そして、そんな店だからこそ、そこへ行けば、探している物が見つかるような気がしていた。