欲望をぶつけ合うだけのセックス。
激しく抱き合ったあと、二人とも脱力して床に寝転がった。
ふと、紘季がしている腕時計に目がいく。紘季は天井を見つめていた。
(この時計・・・止まってんじゃん)
真奈美は紘季の横顔に目線を移した。
目の前にいるのは先生ではなかった。もう真奈美の中で『男』になってしまった。
そう思うと途端に罪悪感が消えた。
(もう、『先生』じゃない)
紘季は何も話さなかった。
真奈美は本来おしゃべりである。しかし、紘季が話したくなさそうだったので黙っていた。
その代わり、歌を口ずさんだ。
「I Am the Walrus・・・♪」
紘季の向こう側に見えた『マジカル・ミステリー・ツアー』のLPが見えたからである。
紘季はハッとして真奈美を振り返った。
驚いた顔をして真奈美を見つめる。
「何で、その歌・・・」
真奈美は笑った。
「お父さんがビートルズ好きだから、知ってる。ちゃんとは歌えないけど。」
ふーん・・・と言って紘季は体を真奈美の方に向けて、肘をついて頭を支えた。
優しい眼差しで真奈美を見つめる。
真奈美はどきどきした。

