「藤くん!」

真奈美は教壇に向かって声を上げた。
女子生徒達と紘季がぴたりと話をやめてこちらを向く。

「数学、ちょっとわかんないとこあんの。教えて!」

真奈美は強気で女子生徒たちを押しのけて教壇に近づいた。

「ちょっと真奈美ぃ。何、勉強しますぶってんのー??」
「あとでにしてよー。」

女子生徒達が顔をしかめる。

「・・・どこ?広瀬」

紘季は真奈美が持っていた教科書を取り上げた。

「えー??藤くーん!」
「ほら、無駄話よりお勉強優先なんだから。邪魔邪魔。」

紘季が女子生徒たちを手で追い払う。
女子生徒たちは渋々教壇を離れた。

「どこ?」
「この・・・問題」

真奈美は適当に問題を指差した。

「これは、今日やったとこの応用なんだけど・・・」

紘季がボールペンを取り、説明し始めた。

真奈美は紘季の顔を見つめる。
伏せたまつげ。前髪が長くて頬に影を落とす。

(何にもなかったみたいな顔して・・・)

真奈美はじっと紘季を見つめた。

「そうすると、どうすればいいと思う?」

聞かれて真奈美はハッとした。

「・・・わかんない」

紘季が顔を上げた。

「・・・広瀬、質問しといて聞いてなかっただろォ」

じろりと睨む。

(可愛い・・・)

「藤くん」
「だから、『先生』って・・・」
「なんでそんなにヨソヨソしいの?」

紘季の動きが止まる。

「・・・何のこと言ってんの?数学の質問じゃないなら、僕はもう行きますよ。」
「しらばっくれるならまた行くからね!『RAU』に・・・」

紘季が教科書で真奈美の頭を軽く叩いて教卓に置いた。

「はい、さよならー。」

そう言って去っていってしまった。

(もー!!)

真奈美は紘季の後姿を睨んだ。
みんなに聞こえるように叫んでやりたかった。

(私とえっちしたくせに・・・!)

それは2ヶ月前にさかのぼる。