(先生の腕時計が壊れてることを知ってる)
(先生のキスが激しいことを知ってる)
(先生の好きな歌が『I Am The Walrus』だってことを知ってる)
(先生の本当の顔を知ってる・・・)



「じゃあ、今日はこれで終わりー。」

チャイムと共に授業が終わる。
途端に教室はがやがやとうるさくなる。

広瀬真奈美。17歳。高校三年生。

毛先は軽くカットしてあり、ふわっとしている肩上までの髪をくるくると指に巻いて教壇をじっと見つめた。

「藤くん、今日のシャツ可愛いねー。」
「あ、藤くん、髪切った!?」

女生徒達が教壇を囲う。

「あのね・・・君達、『先生』と呼びなさい『先生』と」

数学教師の藤代紘季がはーっとため息をついた。

「藤代先生?あー無理無理!藤くんは藤くん!」

キャハハ!と笑い声が響く。

「相変わらず・・・モテてんね。藤くん。」

友達の森下ちほが真奈美に向かってボソリと言った。

紘季は28歳にしては童顔で、背は標準だが、痩せ型なため少し高く見える。
髪はくせ毛で、ボサボサなところが余計に親近感を湧かせる。

「ねえねえ、藤くん休みの日って何してんの??」
「休みの日ィ?日々の授業の反省と予習ですヨ。決まってんでショ。」
「ぜってー嘘!」
「どうせエロいサイトでも見てんだろぉ」

もう一度笑い声が響く。
紘季も笑っている。

(くそー!可愛いなあ!!)

真奈美は心の中で毒づいた。

「大人だけど、少年の雰囲気もあり、話も上手い・・・って、男子生徒にしてみたら喧嘩売ってんのか!?って感じよね。」

ちほが真奈美の気持ちを代弁するかのように言った。

「・・・私、行ってくる!」

ちほが手を振って行ってらっしゃーいと言った。