『あぁ、澪ならいるけど』
『じゃあ、ちょっと上がらせてもらうから』
『やっ、でも昨日の今日でってのは、澪も混乱してるみたいだし』
『これは俺と澪ちゃんの問題だから、黙っててくれる?』

お兄ちゃんを一喝するような声が聞こえたかと思うと、すぐに来栖さんがリビングに現れた。


キッチンで固まっていた私を見つけると、強い眼差しで私を見据える。

「澪ちゃん。俺が誰を好きなのか知ってる?」
「え…?」

来栖さんが言った事はちゃんと聞こえてたけど、唐突な質問で反射的に聞き返してしまう。

すると来栖さんは少し呆れたように、小さく息を吐き出すと、ゆっくりと近づいてきて、肩よりも少しだけ長く伸ばしていた私の髪を梳くように、指を通し毛先を柔らかく包んだ。
そして髪を包んでいる手を見つめていた来栖さんが、視線だけをこちらに向けてきたかと思うと口を開く。

「俺が誰を好きなのか言ってみて」

さっきの質問とは違って、今度はどっちかって言うと命令形だった。

そこまでの一連の言動に身動きひとつ出来ずにいた私は急速に顔が熱くなるのを感じた。
恥ずかしさで、沸騰してそのまま蒸発してしまいそうだ。