『大好きよ』と、涙を流しながら小さな私を抱き締める女性。

その女性に顔はない。

涙を流す女性がどうして泣いているのかもわからずに『私も好きだよ』そう返すと、さらに涙を流しながら私を置き去りに、歩き出す女性。

数歩進んだ女性が振り返って口を動かしたけれど、聞き取ることが出来なくて、それを少し寂しく思う小さな私。


なんて言ったの?そう聞き返そうとしたところで再び眠りから覚めた。
すでに日は高くなっていてカーテンの隙間から光が差し込んでいる。


昔の私の記憶。
こんなふうに夢に見たのは初めてかもしれない。


私と本当の母との記憶。
私は私を産んでくれた女性の顔さえ覚えていない。

私は4歳の時に、この家に引き取られてる。

捨てられたと気付いた時は、自分はいらない子だと思ったけど、あの能天気な両親と私を守ってくれる優しいお兄ちゃんに救われた。

あの人との思い出なんてほとんどないけど、今の家族との思い出があればいい。