「今日はありがとうございました」
「まだ2年の最初の方を教えただけだから、これからゆっくりやっていこう」
「はい。ありがとうございます」

もう一度お礼を言いながら頭を下げると、フワリと頭に手を乗せられる感触。

「澪ちゃんは、呑み込みがいいから教えがいがあるよ」

滑らかな声が頭上から降ってきた直後に来栖さんの手が引いていく。
見上げると、涼しい顔の来栖さん。

私の鼓動はなぜかいつもより少しだけ早くなっているような気もするけど、それを無視して平静を装った。

「じゃあ、また明後日にでも」
「はい。わかりました」

次の勉強会の日を決めると、来栖さんは「じゃあね」と手を上げて玄関の扉を開けて出て行った。

「さよなら」

扉が完全に閉まる前にそう言って、数秒後にガチャリと音を立てて閉まった扉を見つめたまま、ゆっくりと自分の頭に手を乗せる。

さっき、来栖さんが手を乗せた場所に。