入社式に玄さんの姿は無かった。

別の支店の入社式に出向だとは聞かされていたので、落ち着いてお偉方の長い祝辞を聞いていた。



今日からは彼と同じ会社。
部署は違うのでそうそう顔を合わせることはないだろうが、柄にもなくワクワクしていた。



「いい男いるいる!こりゃあ、絶対彼氏見つけなきゃ!」
隣に座る同じ大学の弥生がキョロキョロしながらホールを見回している。


新しい恋か……。


無邪気にはしゃぐ弥生が、少し羨ましくもあった。

迷いなく、何も障害の無い恋に臨む事のできる弥生が眩しかった。


―――新しい恋。

できる事なら見つけたい。わざわざ苦しい恋に溺れたくはない。


楽な恋に逃げようとしている自分がいた。