「…うん、じゃあ…」


 私はその迫力に押し切られて、つい頷いてしもた。


 彼はふやっと柔らかい顔に戻り、


 「ちょっと待っといて。自転車取ってくるわ。」

 そう言って駆け出した。


 心臓がトクン、トクン、と体に響く。


 何やろう、この気持ち。


 「なあ。」

 私は彼を呼び止めた。


 「名前、なんて言うん?」


 男の子は振り向いて



 「浅井陽向。」



 そう言ってまた走って行った。


 「あさい、ひなた、くん…」


 私は彼の後ろ姿を見つめながら覚えたての名前を呟いてみた。


 この時、私の心はふわふわした何かを感じてた。