「良かった。追いついて。」
男の子はそう言ってズレた眼鏡を直した。
まだ息づかいが荒い。
「…あの、何ですか?」
私は恐る恐る尋ねた。
「…はい、これ。」
男の子が差し出したその手には赤のパスケース。
「探してたやろ?」
「あっ!私のだ!!」
私は飛びついてパスケースを受け取った。
間違いない。定期券には確かに『藤田あかり』と書かれていた。
「何処にあったん?」
「図書室のカウンターの下。」
あ!思い出した。
委員会の前に本を返却しに行ったんやった。
「職員室に届けに行ったら、入れ違いで出て行ったって言われて。」
「で、追いかけてくれたん?」
私が尋ねると男の子はニッと笑って頷いた。

