「はい……分かりました。失礼します」
 受話器を戻した途端、ため息が零れる。どうしとなのか、電話に出ると無意識に肩に力が入ってしまうのだ。
 電話は苦手だ。いっそ無くしてしまいたい。
 でも、実行に移す気力もない。
「お疲れさまでした」
 掃除機を持ったまま、村田さんはそう言って微苦笑する。そういえば。そういえばなぜか、彼からの電話ではため息が零れなかったのを思い出す。それも、一番最初の時からと……。
-「こんにちは、村田利勝です」
 優しくて、ニセモノ臭い声。
 一番最初からそう感じていた。なので、その時もすぐには応えられなかった。
 沈黙をどう受け取ったのか、彼はある地名を言ってきたのだ。「もしもし」とも「聞こえてますか? 」とも言わず、自身の住んでいる町名を説明しだしたのだ。
「……どちら様ですか?」
 おかげでか、何とか言葉が出てきたのだ。
「ああ、すみません、覚えていませんでしたか」