「はかせ、博士、ついに出来ました。禿げの薬です」
「ほう、ついに出来たのかね、秋山君、試してやるから貸してみなさい」
 そう言って博士は自分の薄い頭を差し出した。

「いえ、博士、これは頭に付けるものではありません」
「飲み薬かね」
「いえ、特別なウイルスなのです」
「ウイルス? どういうことかね」
「この薬をばら撒けば、明日にはもうこの世から禿や薄毛の方はいなくなるということです」

「なんだって、すばらしい、ぜひやりたまえ」
「はい」
 私はそう返事をしながら、ビンを逆さまにして中身の液体を窓の外にばら撒いた。
 次の日、

「あきやま! これはどういうことだ、説明したまえ」
髪の毛をすべて失くしてつるつる頭になった、博士が勢い込んで尋ねてきた。

「ああ、博士、どうです、これで誰にも禿げって言われる事はなくなったでしょう、だってみんなも同じように禿げなんですから」

 そう言って私は自分も髪の毛の無くなった頭を撫で回した。
 そうあの薬は世界中、老若男女問わず、すべての人間の髪の毛を無くさせる薬だったのだ。
「どうですか博士、もうこれで、禿げって言う言葉自体なくなりますよ」