「ああ、やっぱり、君と踊らなければ良かったな、心を誰かに開いてしまったら、寂しいだけだもの」


 しばらく踊った後、彼が、寂しそうに呟いて足を止めた。私と踊ったことを後悔しているみたい。


「でも、私はきっと、また生まれるわ」


 私は彼を元気付けようとして言った。


「来年になったら、君は僕のことなんて忘れてしまうよ」


 悲しげな瞳で、私を見る。


「ううん、忘れない、私はきっと忘れない」


 私は言った。忘れるもんか、絶対に。


 ああ、でも、もう、意識が薄れ始めている。


「ねえ、名前、名前を教えて、きっと憶えておくから」


 私は、最後の力を振り絞り彼に聞いた。


「ぼく? 僕の名前は、“春”っていうんだ」


 春、ああ、やっと分かった。この人は春なんだ。


 それなら、きっと、来年も会える。


 今年はもう、私は散ってしまったけれど。来年もまた会える。


「私の名前、私の名前はね、さくら、っていうの、忘れないよ、春、私はあなたを忘れない、だから、来年も躍って」


「わかった、約束、約束だよさくら、来年もまた、躍ろう」


 ああ、私の事を握り締める、彼のぬくもりが薄れていく。


「うん」

 それが、彼女、さくらの最後の言葉になった。


 でも、きっと僕達は来年も、二人のダンスが見られる。


 春が来て、さくらが咲き誇る限り。

           了