「どうやら、良くなったようだね」
 僕の様子を見て、おばさんが声を掛けてきた。
「ありがとう、ありがとうございます、僕は取り憑かれていたんですね」
「うん、そうだ、後は二人で仲良くやりな」

 そう言って、美恵子を残して、おばさんは帰ってしまった。

「良い人だったね」
 美恵子が言う。
「ああ、これまで、悪かったな美恵子」
「ううん、良いのよ」

 次の日僕は、日本から姿を消した。

 少し早いが、あの計画を実行するしかない、余り長い事演技を続けていく自信は無かった。

 言っておくが美恵子が美しく、ミイラのエスタが醜いと感じたというのは本当のことだ。

 でも、だからどうしたというのだ、美醜は本当の愛には関係ない。

 男は、女性のどこにほれるのだろう、姿だろうか、それとも心だろうか。

 その二つかもしれない。
 だが、なぜ美しかったエスタが、醜いミイラに変わったからといって、愛が醒めるのだろうか。

 僕は取り憑かれていたのかもしれない、でも愛までは祓えない。

 僕はエスタを愛している。

 僕はエジプトにつくと、盗掘屋から買った古臭い木の箱に横たわる。
 後はこの箱を、砂漠に埋めてもらうだけだ。あの盗掘屋なら、やってくれるだろう、それくらいの金は渡してあった。

 エスタはもはや、生きている人間には戻れないのかもしれない。
 瑞々しい肌も、血色の良い顔色も取り戻せないのかもしれない。

 だが、僕が、エスタと同じ存在になるのは可能だろう。

 いつしかミイラになった僕は、展覧会などで日本の国立博物館に行って、エスタの横によこたわり、幸せそうにエスタを見つめるんだ。

  何年掛かるかわからない、下手すれば何千年もかかるかもしれない。

 それでも、希望はある。
 僕は古臭くかび臭い、木の箱に入りながら、幸せに酔っていた。
 ただ、あなたに会いたくて。

(注)ここの作品はフィクションであり、実際の国立博物館のミイラとは関係ありません。
それに、実際に置かれているミイラは男性だそうです。