もう耐えられない。
「ごめん僕もう失礼するよ」
 僕は吐き気がする口元を押さえながら、椅子を立つ。
「ちょっと、ここの支払いどうするのよ」
 そんな彼女の声を振り切るように、僕はお店を飛び出していた。

 上野だ、相変わらず人が多く、嫌でもすれ違う人たちの会話が聞こえてくる。

「ねえ、私の彼がさ……」
「今度おいしいお店が出来たのよ」
「お前落第したらどうするんだよ、良い会社入るためにも今はがんばって勉強しろよ」
 ああ、醜い、何て醜い連中だ。
 食欲、性欲、睡眠欲、権力欲。

 欲望にコントロールされ、本能を満足させるしか興味が無い生き物。
 これが人間だというのか、この醜い連中が、そして僕もこの醜い生き物の一人なんだ。

 うわあああああ。

 そう考えて、声にならない叫びを発しながら僕は走りだしてしまった。
 通行人を押しのけ、よけ、罵声を浴びせられ、それでも走り続ける。
 はぁ、はぁ、はぁ、
 しばらく走ると、運動不足も手伝ってか、僕は腰をかがめながら喘いでいた。

 上野の森の入り口だ。

 そこには大きな鯨の実物大の模型が飾ってあり、博物館、科学博物館、西洋美術館、動物園などが集中している地域で大道芸なども盛んに行われている場所だ。

 ここも人が多い、僕は少し落ち着くと、目的も無く公園の中に向かってとぼとぼと歩き出した。
 何も考えたく無かった。