声が聞こえた。
 この言葉は、美代子ちゃんが言っていた、あのカーテン妖怪の台詞だ。
 わたしは思わず先生の足元の向こうを見る、すると、漆黒の暗闇がひとりでに立ち上がり、先生の首をしめている。
 間違いない、カーテン妖怪だ。
 カーテン妖怪が私の事を助けに来てくれたんだ。
 どさりと、私の前に先生の体が落ちてきた。
「ぐふふ、永遠の暗闇に落ちるが良い」
 そう言いながら、カーテン妖怪は、先生の体を見下ろした。
 私はその様子を息を呑んで見守る。

 すると、カーテン妖怪は暗闇に眼球だけが書いてあるような目でじろりとわたしを見つめた。

「ほーう、ここにも暗闇が欲しい物がいたか」

 だめだ、わたしも殺される。カーテン妖怪は私の事を助けに来たんじゃなかったんだ。
 わたしは必死になって懐中電灯に手を伸ばそうとしたが、まだ体が動かない。
「暗闇が欲しいのだろう、ならばくれてやる」
 そう言って、カーテン妖怪が真っ黒な手を伸ばしてくる。
 ああ、結局殺されるのか、先生のときは助かったと思ったのに。

 天国に行ったら、美代子ちゃんと遊べるかな。

 私がそう思った瞬間、
 なにか暖かいものが私の周りに現れ、渦を巻いてきらきらと光った。
「うふぉぉぉぉぉ」
 その光が怖いかのように、カーテン妖怪はたじたじと引き下がる。
―――だ、め。
 私の耳にあたたかくやさしい声が届くと、更にその光が強くなった。
 あたたかい、でもこの暖かさはわたしには覚えがあった。
 美代子ちゃんだ。この光は美代子ちゃんだ。
 美代子ちゃんが助けに来てくれたんだ
「がっはあああ」
 カーテン妖怪はその光に耐えられないのか、悲鳴を上げると、もといた暗闇に帰っていった。
 すると、私の周りに漂っていた光も徐々に薄くなっていく。
―――じゃ、あ、ね。
「待って、待って、美代子ちゃん、美代子ちゃんでしょう」
 わたしは、必死になって、その光に向かって言った。
 だが、悲しい事に返事は無い。
 ただ、私の周りに漂う暖かい空気は、とても懐かしい感じがした。