コケの一念岩をも通すとでも言いましょうか、それとも、押しの一手とでも言いましょうか。少し考えるようにしながらも、この女の子ついつい、浩二を部屋に上げてしまいました。

 さて、ここまで来れば、当然浩二も部屋に上がりこんでコーヒーを飲むつもりなど、これぽっちもございません。
 さあ、一戦交えるぞと、鼻息も荒く女の子に続いて部屋のドアを通りました。

 すると、

 いきなり後から、ガツンと後頭部を殴られて、浩二は気を失いそうになってしまいました。
「な、なにを」
 そう言いながら振り返った浩二の目に、金槌を構えた、年老いた老婆の姿が、映ります。
「だ、だれ? 一人暮らしだって言っていたじゃねえか」
「あら、随分丈夫だねー」金槌を構えたまま老婆が喋りだしました。「これなら良いだしがとれそうだよ」
「あ、あの女の子は」
 チラリと前を見ると、その女の子は我関せずとばかりにお茶を飲んでおります。

「ああ、あれ、あれは、私の囮だよ」
 それから先は皆様方想像の通りでございます。そうなんですこの女の子は山姥のデコイだったのでございます。
 恐ろしい話でございますな。
 えっ。私は誰かって?
 ああ、私は、皆様方の恐怖を吸い取って糧にするという、恐吸鬼さまのデコイでして。
 本日は、皆様の恐怖をいただき、ほんとうにありがとうございました