でも、もしかして、本当にぼくの目の錯覚かもしれない。
「いや、今サトシのランドセルに、おばさんが吸い込まれたような気がして」
「はぁー、ケンジ、お前、何言っているんだよ」
「お前なんにも感じていないのか」
「だから、何をだよ」
 サトシは、訳がわからないというような顔をして、僕の方を見ている。
 やっぱりぼくの気のせいなのだろうか。
 ランドセルに人が吸い込まれるなんてあるわけがない。

「いや、ごめん、なんでもないよ、サトシ」

 その後、ぼくはサトシのランドセルを気にしながらも家にかえったんだ。
 だが、うちに帰ると、ぼくの目の錯覚じゃない証拠が待っていた。

「なんですって、内村さんの所のおばさんが、帰ってきていない!」

 夕食を食べている時、お母さんが電話口で大声を上げた。
 その声を聞いて僕はピンと来た。

 内村のおばさん! 

 そうだ、あまりにランドセルに吸い込まれるのが早かったから、分からなかったけど、あれは内村のおばさんだったんじゃないのか。
 でも、それが分かった所で、僕はどうすれば良いのだろう。
「おかあさん、内村さんのおばさんはサトシのランドセルの中に入っているかもしれないよ」
 そんなこと言ったら、信じてくれない上、またお説教を食らうに決まっている。
 それに、サトシのランドセルの中におばさんが入っていると言う証拠がある訳じゃないんだ。
 その辺から何もなかったような顔をして出てくる可能性だってある。

 でも、それから、いつまでたっても内村さんのおばさんは出てこなかったんだ。