ねえみんな、ぼくはある秘密を知っているんだ。

 それはね、サトシのランドセルの中に人間が吸い込まれるって言う事。
 最初に人が吸い込まれるのを目撃したのは、サトシと一緒に通学路を歩いて帰るときだった

「なあ、ケンジ、俺は早く大人になりたいよ」

 サトシはそんな事を言って、ぼくのほうを見たんだ。
 長い髪が風に揺れている、僕が言うのもなんだけどサトシは格好が良い。
 手足は長いし、喧嘩も強い。

 僕が勝てるのは足の速さくらいだけれど、それも、そろそろ負けそうな気がしている。

「そうなの、ぼくは五年生の行事の事しか考えていないけどな、運動会のリレーとか」
 そう返事をして、僕はサトシの方を見た。
 どこにでもあるような閑静な住宅街で、サトシの後ろを買い物帰りのおばさんが通ろうとしている。
 当たり前のようないつもの光景。

 次の瞬間。

 サトシのランドセルから青い手がいきなり一本出てきたかと思ったら、もの凄い速度でおばさんの頭をわしづかみにして中に引き込んでしまったのだ。

 目の錯覚かと思えるような、一瞬の出来事。

「あっ」
 ぼくはいつもかぶっている毛糸の帽子を直して、サトシのランドセルを見つめた。
「なんだ、どうしたんだ、ケンジ」
 まるで何もなかったようにサトシはニコニコとして、ぼくのほうを見ている。
 僕はその微笑を見て背筋が凍った。

 こいつ、分からない振りをしているんじゃあないのか。