「地球、命」
「そうよ、そして雨はこの星の命の活動なのよ」
　そう言って彼女は、喜びをこらえ切れないのか、その場で、軽く跳ねた。
　そうか、確かにそうだ。僕は少し違った気持ちで、空から降り注いでいる雨を見つめた。
　これが、地球の血液か。命を満たすもの。
「どう、そう考えると少しは雨の日が好きになったでしょう」
「ああ、まあね、でも僕が雨の日が嫌いだって言っているわけじゃあないよ」
「そう？」
　そう言って彼女はうれしそうに上を見上げた。本当は僕の事などどうでも良いみたいだ。

　その時、車の音が迫ってきた。
　君は、上を見上げていて気がつかないし、車も止まる様子はない。
　まずい、轢かれる。彼女を救わないと。
　僕は一気に飛び出すと、彼女の腕をつかんで引き寄せる。
　間一髪。
　車のタイヤが僕と彼女側を通り過ぎ、水の塊が叩きつけて来た。
　ビシャッと、僕も彼女も頭から水を被ってしまう。
　車は何事もなかったかのように通り過ぎ、僕はびしょ濡れの君を見つめる。
　頭から足の先までびしょ濡れだ。僕はそれを見て、車への抗議の怒鳴り声を忘れて、何故だか笑ってしまった。

「ぷっ」
　思わず吹き出してしまう。
　すると、彼女も僕の方を見て大きな口を横に引いてニタリと笑った。
　僕はその顔が妙におかしくて、更に笑った。
　彼女もつられて笑う。僕と彼女、二人の笑い声がハーモニーを奏でて周囲に響き渡った。