ああ、マリサ、美しいマリサ、でも私に何が出来たでしょう、あなたが好きですと言って彼から奪い取れとでも。
 出来るはずがありません。私はロボットなのですから、出来るのは二人の為にカクテルを作るくらいです。
 私の前で、いつも驕慢に抱き合う二人、それはそうでしょう、私など彼女達にしたら、機戒に過ぎないのですから。
 でも、私の胸は張り裂けそうです。
 それで、私は居たたまれなくなって、つい庭に駆け出しまったのでございます。
 そこには雨が降っておりました。
 雨、私の替わりに泣いてくれているかのような激しい雨。
 カン、カン、カン、と私が機戒である事をことさらに協調するかのように、雨粒が鉄のボディーに当たって音を発します。
 ああ、残酷な。何故、私だけ心を持ったのでしょう。
 こんな、ハートなんてなくなってしまえ、他のロボットと同じように。
 そう思って、長い事、庭で一人、たたずんでおりました。
 すると、いつしか雨が止んでいるのに気がつきました。
 私はロボットアイを上空に向けました。するとそこには、美しい虹が出ていたのです。
 それは私の仲間達には、単なる光の屈折にしか捉えられないものでしょうけれど、今のわたくしには、空に続く橋に思えました。
 天空を支配する美しい青へと続く、七色の階段。
 その時、私は自分に与えられたハートに始めて感謝しました。
 なぜなら、この世にはこれほどまでに美しいものがあるのかと感動できたからなのです。