それから、次においらを拾ったのはどこかの奥さんだった。
 今度は家庭の料理のかき混ぜ棒としてさ。
 そこの奥さん使い方が荒くてさ、おいら毎日折れそうになりながらも、シチューとかの、重い液体をかき混ぜたんだ。
 でもさ、そのうち、この家庭でも喧嘩が始まっちまった。
 まったく、人間達って言うのは懲りないよね、どこ行っても喧嘩だ戦争だって争いごとが絶えやしない。

「あんたー!」
 その太った奥さんはさ、この時おいらを、かき混ぜ棒としてじゃあなく、旦那を打ち殺す武器としてつかったんだ。
 えっ、打ち殺すは言い過ぎだろうって?
 いやいやいや、あの勢いは完全に殺すつもりだったろうね、おいらには何もかもお見通しさ。
 まあ、とにかくおいらを高く振り上げた、奥さん。
 でもさ、相手のやせっぽちの旦那の方も中々やるもので、負けじとこぶし大の石を振り上げたんだ。
 石とおいらだったら勝負は決まったようなもんだろう、石を投げつけられたらおしまいだ。
 奥さん上手くかわせば良いけれどな。
 そんな事を思っていたら、旦那が思いっきり石を投げた。
 すばらしく、良い球だったね。
 奥さんこれはかわせないだろう、何て思っていたらなんと奥さん、おいらでその石を打ち返しやんの。
 この時はさすがにおいら折れちまうと思ったけれど、首尾よく折れずに、石を打ち返すことに成功したのさ。
 跳ね返って、ピューと跳んでいく石。
 そのあまりの速度に旦那驚いたんだろうね、何も出来ずにその石を頭で受け止めちまった。
 アーメン、ご臨終さね。

 それで、今おいらは地面に真っ直ぐ突っ立っている。
 何をしているかって?
 ああ、おいらは今その旦那の墓標になってのんびりやっているんだよ。

 えっ、単なる木の棒に見えたって? うん、まあ、なんだって良いよ。杖にしろ料理の道具にしろ、おいらに意味をつけるのは、あなた達、人間の皆さんなんだから。