なにしろ、死と言うのはとてもあたたかく、そして、やさしく、誰にでも不平等はないものでしたから。
 金持ちも貧乏人も、美男も醜男も、女も男も、坊主も司祭も、死と言うのは決してえり好みせずに平等に一つの欲望のみに人を従事させる事が分かったのです。

 それはね、食欲。

 とにかく、腹が減って、腹が減って仕方がないのです。
 もう、動いている物なら何でも良いから食べたい、本当です、それが、鉄で出来た車であれなんであれ、食いたい。
 食いたい、食いたい、食いたい。
 ああああああああ、くいたい。
 ああ、

 す、すいません、ちょっと我を忘れてしまいました。
 ええっと、欲望の話でしたね。そう食欲、なんと強い欲望。
 でもね。

 逆に言うならそれだけなんですよ、君たち見たいにね、あの女とやりたいだとか、あの男を振り向かしたいだとか、あいつより偉く、金がほしい、寒い、熱い、悲しい、苦しい、痛い。

 なーんにも、無い。

 たった、一つの欲望しかないのです。
 一つの欲望、それくらいだったら何とか抑えられると思いますよね。
 ええ、その通りです。
 こうみえても、生前は坊主だった私です、食欲ごときの欲望など抑えて見せましょう。

 えっ、それで、抑えてどうするのかって?
 もちろん、説いて回るのです、死の美しさ、喜び、輝き、それら、言葉では言い表せないような悦楽にみちた日々のすばらしさを。

 大丈夫です、生前を思い出し誠意に満ちた言葉を尽くして、必ずや、人々に分かってもらえるように、尽力するつもりですから。

 ただね、問題が一つ。

「きゃああああああああ、ゾ、ゾンビよー、ゾンビが出たわー」
「ぐ、い、し、ぐわあああああ」
 拙僧たちはあまりコミュニケーションが上手くないのです。
「死んでー」
 バキューン、バキューン、バキューン。