「あの世はどうだったでしょうか」
 そうだ、それが良い、洒落がきいている上に、彼女の印象も良くなるであろう。
 そして、彼女の手をとって、下劣な日の当たる世界にくり出すのだ。
 私はそう考えながら、蘇生装置のスイッチを押した。
 心臓に電気ショックが送り込まれるのと同時に、増幅された脳波が彼女の脳をノックする。
 彼女の体が痙攣し何度ものけぞる。
 私は固唾を呑んでその光景を見つめた。
 さあ、目覚めておくれ、私の大切なプリンセスよ。
三十秒を過ぎたところで私は心臓に電機を送り込んでいた装置を止めた。
 彼女の痙攣が止まる。
 それを見て私はすぐに彼女の所に駆けつけた。
 私の計算が正しければ、もう彼女の心臓は動いているはずだ。
 私は、彼女の美しい胸の上に耳を付けると、彼女の鼓動を聞こうとした。
 だが、心臓の音が聞こえるよりも早く、彼女の胸が持ち上がっていく。
 まさか、
 私が驚き見つめる前で、彼女の上半身がゆっくりと持ち上がっていくではないか。
 美しい、私は図らずも彼女に見とれてしまった。彼女の動きを見たら、世界最高のバレリーナでも羨望するに違いない。
 彼女の上半身は、完全に直角に起き上がった。
 そして、ゆっくりと目を開く。
 私は彼女の顔の目の前に行くと、先ほど考えた質問をぶつけてみた。
「あ、あの世はどうだったでしょうか」
「……」
 ああ、いいのだ、いいのだよ、返事がないことなんて、最初から分かっていたのだから。
 だが、彼女は私の頭を愛しそうに両手でつかんだ。
 ひんやりとした感触がこめかみから伝わってきて、私は一瞬酔いしれた。
 ゆっくりと彼女が口を開く。
「あの世?忘れたわ」
 そう言い放つや否や、彼女は私の首をへし折った。
 ボキリと自分の首が折れる音が、私の聞いた最後の音になった。