虫食いだらけの、小さな赤い花が荒野に咲いている。

 彼女は荒野にただ一輪咲き、天から平等に与えられるはずの慈雨もここのご無沙汰だ。
 彼女がこんな干からびた荒野に来たのには訳がある。

 それは彼女がまだ種のときに、ゴミのようにトラックから投げ捨てられたからだ。
 その髭だらけの、どこか熊に似たトラックの運転手には悲しい事に悪意が有った。
 こんな小さなタネにそんな悪意を抱くなんて、と普通の人なら思いそうなものだが、この運転手はこの時普通ではなかった。
 こんな砂漠に捨てられてさぞ困るか、それじゃなかったら、動物のえさになるところを想像して、今日あった仕事のストレスを解消したのだ。
 どこにでもよくいる、ちっぽけな人間。誰もが気分次第で成る可能性のある人間。
 不幸にもそんな人間の手に渡ったのが彼女の運のつきだった。
 彼はありの巣の側に芋虫を置くような残酷さをもって、そのタネを砂漠に投げ捨てたのだ。

 さて、捨てられた種である彼女はもちろんそんな事は知らない。
 風に運ばれて、乾燥した地帯を転がり、その日の昼に天のいたずらで降った雨で出来た湿地に捕まり、そこに居ついてしまっただけだ。
 
 それからの彼女は、風にさらされ、熱に焼かれ、乾燥した大地に水分を奪われ、食べ物を探す動物の眼を免れたりして、なんとか生きてきた。
 頼みの綱は優しいとはとても言えない日の日差しと、気まぐれにたまに振る雨だけ。
 一度は完全にその葉をうなだれてしまい、負けを認めようかとしているような仕草すら見せたりもした。