「ねえ、タケ!今日カラオケ行くんだけど、一緒に行かない?!」
クラスの女子が言ってきた。
「あ?俺パス!」
健人は言いながら、走って教室を出た。
走ると既に聖美は花壇にいた。
健人を見ると、にっこり笑った。
この顔を見ると、健人は天にも登りたくなってしまう。
あれから、ほとんど毎日こうして健人と聖美は花壇で会っていた。

彼女は学校に来るようになり、良く笑う様になった。
「もう来週ね。試合」
「ああ、祈ってて」

「大丈夫よ、健人君なら。あんなに頑張っているんだもの」

「あ、あの…さ、今日部活終わるまで、良かったら、待ってて欲しいんだ」

「―え?」
「…今日、一緒に帰ろう?」
聖美はうつむいた。

「―ごめんなさい、それは出来ないの」

「―あ、そっか。いや、いいんだ。ごめん」

「ごめんなさい…」
二回も謝られてしまい、健人は何も言えなくなった。

「―実はさ、サッカー部の奴らと帰るといっつも汗臭くてさ!
たまには百瀬の様な花の匂いがする奴と帰ると気分が違うかもな~って思ってさ!
あ、でも俺が汗臭いから、百瀬が迷惑か!」

聖美は笑った。
「私、花の匂いなんかしてないわよ」

「してるよ」

「香りって言うの」
健人は笑ったが、心はへこんでいた。

もしかして徐々に自分に好意を寄せてくれているのではと思っていたのだが、勘違いだった。

(ああ~、どうやったら彼女に振り向いてもらえるんだ…)